上肢機能障害とは?測定方法や後遺障害等級についても解説!
上肢機能障害について詳しく解説します。上肢機能障害の定義や、関節ごとの可動域の測定方法を説明!また、交通事故による上肢機能障害として認定される、後遺障害等級の基準も合わせて紹介します。交通事故での損害賠償の目安も挙げますので、ぜひ参考にしてください。
目次
上肢機能障害について解説
交通事故で負う後遺障害の一つである、上肢機能障害について解説します。上肢機能障害の種類にはどのようなものがあるか、関節の可動域がどう変わるのかをまとめます。また、上肢機能障害の具体的な測定方法と、判定基準も挙げています。
機能障害を負った部位ごとに、後遺障害等級の認定を受けたり、それを基に損害賠償を請求することも可能です。
上肢機能障害の種類
上肢機能障害は、症状の残り方によって大きく3種類に分かれます。上肢の定義と、それぞれがどのような状態になった時を上肢機能障害と呼ぶかを例示します。
上肢とは?
肩、肘、手関節(手首)の3大関節及び手指の部分を総称して、上肢と呼びます。後遺障害等級の認定では、肩、肘、手の関節が上肢3大関節と総称されます。
なお、手関節から先の部分は「手指」という一括した扱いです。後遺障害等級認定の対象としては、3大関節とは別個に扱われます。
種類①関節の用を廃したもの
「関節の用を廃した」とは、上肢の関節が強直した(こわばった)まま、または完全弛緩性麻痺により、主要運動ができない状態のことです。その関節が、いくつかの主要運動を担っている場合は、その全てが強直、もしくは麻痺していることが条件となります。
また、他動では可動できるものの、自動では健側上肢の可動域の1割程度以下になった状態が「これに近い状態にあるもの」です。具体的には、人工関節や人工骨頭を挿入した関節で、可動域が健側の半分以下に制限されているものが該当します。
その関節が司る主要運動が複数ある場合は、そのうちの一つが健側の半分以下に制限されている場合も同様です。
種類②上肢の用を廃したもの
「上肢の用を廃した」とは、上肢3大関節がすべて強直し、かつ手指の全部の用も廃した状態です。関節が完全に動かなくなった、またはそれに近い麻痺状態にあるものをいいます。
日常生活への影響としては、補助具なしではスプーンを使っての食事や洗顔、用便の処置、上衣の着脱などが不可能となります。
種類③関節の機能に著しい障害を残すもの
「関節の用を廃した」よりは若干症状の軽いものとして、「関節の機能に著しい障害を残すもの」という分類があります。著しい障害とは、上肢の関節の可動域が健側の4分の3以下に制限されている状態を指します。
主要運動が複数ある場合は、関節の用を廃した状態と同様に、複数の主要運動のうちの一つが制限されていることが条件です。
上肢機能障害の可動域測定方法
上肢機能障害における、関節ごとの可動域を測る主要運動と参考運動の測定方法をまとめます。可動域は、機能障害等級の決め手となる要素です。
測定方法①肩関節
肩関節の可動域は、主要運動の屈曲と外転内転、参考運動の伸展と外旋内旋がどの程度可能かで測定します。具体的には、前方への屈曲が180度、後方への伸展が50度、横方向の外転が180度、内転が0度(胴体と垂直か)、外旋が60度、内旋が80度まで可能かどうかが基準です。
特に主要運動である屈曲は、健側よりも屈曲の可動域が制限されている場合、上肢機能障害として認められることがあります。
肩関節の屈曲の可動域が90度である場合、健側の可動域角度が170度であるときは、170度の1/2である85度に10度を加えると95度となり、患側の可動域90度はこれ以下となるので、肩関節の参考運動である外旋・内旋の可動域が1/2以下に制限されていれば、著しい機能障害(第10級の9)となる。
出典: www.mhlw.go.jp
測定方法②肘関節
肘関節の可動域は、主要運動である屈曲伸展がどの程度できるかを測定します。具体的な角度は、屈曲145度以上、伸展5度以上の可動が可能かどうかです。
なお肘関節には、参考運動は設定されていません。よって、可動域がこの角度をわずかに上回る程度であれば、上肢機能障害としての判定が出ない可能性があります。
測定方法③前腕関節
前腕関節の可動域は、主要運動の回内回外が、それぞれ90度以上可動できるかどうかを測定します。前腕関節も、肘関節と同様に参考運動がないため、90度をわずかでも上回るのであれば上肢機能障害の認定が下りないことがあります。
測定方法④手関節
手関節の可動域は、主要運動の屈曲伸展、参考運動の橈屈尺屈の角度を測定します。基準は、屈曲が90度、伸展が70度、橈屈が25度、尺屈が55度以上可動できるかどうかです。
手関節では、主要運動の屈曲伸展、参考運動の橈屈尺屈がそれぞれ同一の面の運動であることから、稼働できる角度の和が健側と比べて上肢機能障害の認定基準を満たしているかどうかを測ります。
交通事故の上肢機能障害で認定される後遺障害等級
交通事故により上肢機能障害となるようなけがを負った場合、その後の補償を金銭によって行うのが後遺障害認定です。後遺障害等級は、用を廃した箇所によっていくつかのパターンに分かれています。
①1上肢の3大関節のうち1関節の機能の障害
肩関節、肘関節、手関節のうち1関節の可動域が、健側の可動域の角度よりも4分の3以下であれば、1上肢の3大関節中のうち1関節の機能障害となります。この機能障害は、第12級6号の認定です。
②1上肢の3大関節のうち1関節の機能の著しい障害
1上肢の3大関節のうち、1関節の機能に著しい障害が認められる場合は、第10級10号の機能障害等級です。具体的には、上肢の関節の可動域が、健側の可動域角度の2分の1以下である場合をいいます。
また、人工関節などを挿入置換した場合は、健側上肢の可動域角度の2分の1に制限されていない状態も該当します。
③1上肢の3大関節のうち1関節の用を廃したもの
1上肢の3大関節のうち1関節の用を廃したものとして上肢機能障害が認められた場合は、第8級6号に認定されます。
状態としては、関節の強直や、完全弛緩性麻痺やそれに近いものを指します。人工関節などを挿入置換している場合は、健側上肢の可動域角度の2分の1以下である状態も該当します。
④1上肢の3大関節のうち2関節の用を廃したもの
1上肢の3大関節のうち2関節の用を廃したものとは、肩関節、肘関節、手関節のうち2関節に、強直や完全弛緩性麻痺が認められる状態をいいます。機能障害の等級としては、第6級6号の認定です。
人工関節や人工骨頭を挿入置換している場合は、その関節の可動域角度が健側の2分の1以下である必要があります。
⑤1上肢の用を全廃したもの
1上肢の用を全廃したものとは、右半身または左半身の肩関節、肘関節、手関節、手指の全てに、強直や完全弛緩性麻痺が認められる状態です。機能障害の等級は、第5級6号となります。
⑥両上肢の用を全廃したもの
左右両方の上半身において、3大関節と手指の全てが強直などの状態となった場合は、上肢の用を廃したものとして第1級4号の機能障害が認定されます。また、両上肢を交通事故により肘関節以上で失った場合は第1級3号の機能障害認定です。
交通事故で上肢機能障害が認められた場合の損害賠償の目安
交通事故により、上肢機能障害が認められた場合は、自賠責保険であればおおむね以下の基準で損害賠償額が決められます。下表に、後遺障害等級ごとの損害賠償額をまとめます。
後遺障害慰謝料の目安
上肢機能障害で認められる可能性のある、後遺障害等級と損害賠償額は以下のとおりです。等級が重いほど、損害賠償額も高額になります。
後遺障害等級 | 損害賠償額 |
---|---|
第1級4号 | 2,800万円 |
第5級6号 | 1,400万円 |
第6級6号 | 1,180万円 |
第8級6号 | 830万円 |
第10級10号 | 550万円 |
第12級6号 | 290万円 |
逸失利益の目安
上肢機能障害など、交通事故の後遺障害による逸失利益は、以下の計算式で求められます。被害者が有職者や就労可能者であるか、症状固定時点で18歳未満であるかによって、計算式は変わります。
被害者の就労状態 | 計算式 |
---|---|
有職者または就労可能者 | 1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率 ×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数 |
症状固定時点で 18歳未満の未就労者 | 1年あたりの基礎収入×労働能力喪失率 ×(67歳までのライプニッツ係数-18歳に達するまでのライプニッツ係数) |
労働能力喪失率とは、交通事故などの後遺障害により失った労働の能力を、割合として示した基準です。上肢機能障害に関連した喪失率は、第1級で100%、第5級で79%、第6級で67%、第8級で45%、第10級で27%、第12級で14%となります。
またライプニッツ係数とは、就労可能年数ごとに定められた数値です。18歳以上であれば、若い人ほど係数が高くなります。
上肢機能障害は可動域の制限の程度によって評価される
上肢機能障害の評価基準は、肩、肘、手の関節や手指の可動域が、どの程度制限されたかで決まってくることが分かりました。後遺障害が認定された時には、等級ごとに自賠責保険や逸失利益の計算式が変わってきます。
上肢機能障害は、交通事故の被害者にとって人生を大きく変えてしまう重篤な後遺障害です。万が一、このような大けがを負う交通事故の被害に遭ってしまったら、機能障害認定を受け、適切な金額の補償を受けられるような心構えが必要です。
この記事のライター
東雲修
世の中の「ちょっと気になること」を日々集めて、読者の皆様に分かりやすく解説していきます。交通事故での「困った!」が、「分かった!」に変わる助けになれば幸いです。
記載されている内容は※2022年6月7日 10:53:33 ※時点のものです。
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