症状固定とはどういう意味?時期の目安や損害賠償についても紹介!
症状固定とはどういう意味であるのか、詳しくまとめました。交通事故による怪我の種類別にみた、症状固定の時期の目安も解説!症状固定後の治療費はどうなるのか、後遺障害等級認定や後遺障害慰謝料についても説明するため、参考にしてください。
目次
症状固定について解説
交通事故による怪我の治療を続けていると、医師や保険会社から「症状固定にしましょうか?」と打診されることがあります。
本記事では、症状固定とはどのような意味であるのか、時期の目安などについても、解説します。また、症状固定後の流れや賠償金についても載せているため、チェックしてみてください。
症状固定とは?
症状固定の意味
交通事故で怪我をすると、回復するまで治療を受けますが、いつまでも続けるわけにはいきません。ある程度の時期が来たら、治癒または症状固定かで判断をし、区切りをつけます。
治癒とは、怪我が完治したことです。また、症状固定とは、これ以上治療を続けても、回復の見込みがない状態であることを意味します。リハビリなどの治療を受けると、一時的に回復するものの、また元の症状に戻ってしまう状態のことです。
治療によりある程度まで症状が改善したけれども、ある時を境に、治療をしても効果が感じられず、症状の改善が見込めなくなってしまうことがあります。
このような状態のことを、交通事故の実務においては、「症状固定」と呼んでいます。出典: www.adire.jp
症状固定の目的
症状固定の診断は、慰謝料や賠償金において、区切りをつける目的もあります。症状固定と診断された後は、損害賠償上で治療が終了したということです。そのため、診断前に支払われていた治療費や入通院慰謝料などは、打ち切りになります。
しかし、症状固定の後に残った症状においては、後遺症とみなされます。したがって、後遺障害等級認定の申請をすることが可能です。
後遺障害等級が認定されると、逸失利益や後遺障害慰謝料の請求をすることもできます。後遺障害の症状を調査し審査が行われ、等級や認定の可否が決定されます。
症状固定の重要性
先述のように、後遺障害等級認定を申請するためには、症状固定の診断を受けることが条件です。症状固定でないと、後遺障害とみなされず、申請することはできません。症状固定を受けることは、等級認定を申請する上で、非常に重要なポイントです。
また、いつまでも治療を続けていると、加害者側の保険会社は、長期間に渡り治療費を支払うことになります。後遺障害における賠償金も、確定できません。そのため、保険会社側にとっても、症状固定によって賠償金を確定できるという、重要性があります。
症状固定の判断
症状固定は医師が判断する
症状固定であるかどうかの判断は、医師によって行われます。治療が長引くと保険会社の方から、治療費や休業損害の打ち切りを打診されることがあります。しかし、慌てて応じる必要はないです。なぜなら、保険会社には症状固定を決める権限がないからです。
したがって、医師から症状固定と診断されない限りは、自分の症状をしっかりと伝えながら、治療に専念しましょう。
症状固定日の認定は裁判所が行う
医師が症状固定と診断していなくても、保険会社の独自のやり方で、早めに治療費の打ち切りをするケースもあるでしょう。保険会社が治療費の支払いを拒否することで、トラブルになった場合は、裁判所が判断することになります。
裁判所は医師の意見書や治療経過などの資料に基づいて、症状固定日と賠償額を決定します。最終的な症状固定日の判断をするのは、医師ではなく裁判所です。
したがって、医師の意見はあくまでも参考にするだけで、決定づけるものではないことを、認識しておきましょう。
症状固定日は損害賠償請求権の時効に関わる
症状固定日は、後遺障害における損害賠償請求権の、消滅時効日を決定する起算点にもなります。消滅時効日とは、交通事故の被害者が加害者側の保険会社に、賠償金を請求できる権利が消滅する日です。
後遺障害分の費目である後遺障害慰謝料と逸失利益の時効は、症状固定翌日から5年後とされています。また、傷害や物損に関する費目は、症状固定日とは関係なく別途時効が設けられているため、注意してください。
保険会社から症状固定を打診されたときの対処法
保険会社が症状固定を打診する目的とタイミング
加害者側の保険会社が症状固定を打診してくるのは、長期間に渡り治療費を支払いたくないという理由があります。また、保険会社は営利企業であり、必要最低限の補償にしておきたいという目的があるでしょう。
症状固定で治療が完了すれば、保険会社は治療費や休業損害の支払いをしなくて済むのです。そのため、これ以上治療費の支払いを、続けなくても良いと判断したタイミングで、打診をしてくる可能性が高いです。
対処法①主治医に治療の必要性を説明してもらう
保険会社が打診をしてきても、医師からまだ症状固定の診断を、受けていない場合があります。そのような場合は、治療費の支払い期間の延長をすることが可能です。
症状固定の時期かどうかの判断は、医師のみができます。そのため、主治医に治療を継続する必要があることを、保険会社に説明してもらいましょう。
また、その際に交通事故と怪我の症状に因果関係があることも、伝えると良いです。そうすることで、治療費の受け取りを延長できる可能性が高くなります。
対処法②弁護士に交渉を依頼する
治療費の打ち切りを打診されたとき、医師に相談したり相手側の保険会社と交渉したりなど、手間がかかります。また、専門的な知識がなくて、対応にとまどうこともあるでしょう。交渉をスムーズに行いたい場合は、弁護士に依頼するのも、ひとつの方法です。
交通事故に関する案件に強い弁護士であれば、問題を解決してくれる可能性が高いです。また、被害者側が加入している保険に、弁護士特約が付いていれば、利用することができます。そうすると、原則費用負担なしで、弁護士に依頼することも可能です。
症状固定の時期の目安
①打撲
打撲を受けた場合は、交通事故から1週間~1ヶ月が回復の目安となります。1ヶ月で治療の必要がなくなれば、そのまま完治するケースが多いです。
また、1ヶ月経っても治療が必要な場合は、重症とみなされます。症状固定の時期は、3ヶ月治療を続けた頃に診断されることが多いです。もちろん、交通事故による怪我の症状は、事故の状況や個人の体質にもよります。
②むちうち
交通事故で強い衝撃を受けたことにより、むちうちを発症することがあります。主な症状は、首や背中まわりの痛み、痺れ、腫れなどです。むちうちの症状は、目に見えて分かりにくいケースも、多くあります。
そのため、後遺障害等級の認定には、受傷時の状態や治療内容、症状経過などを参考にします。頚椎捻挫や腰椎捻挫のむちうちである場合は、軽症で3ヶ月頃が症状固定の時期です。重症の場合は、6ヶ月以上経った頃が目安の時期になります。
③醜状(しゅうじょう)障害
交通事故によって、頭部や首、上肢や下肢の露出面に、傷跡が残ってしまう後遺障害のひとつです。傷跡はケロイド状のものからデグロービング損傷まで、さまざまな種類があります。
醜状障害の場合、交通事故から6か月以上の治療期間を経た頃が、症状固定の時期です。傷跡の状態によって個人差が大きいため、最短で6ヶ月と認識しておくと良いでしょう。
④骨折後の疼痛
交通事故で骨折した場合、痛みや症状もさまざまです。症状固定となるまでの最短期間は、交通事故後の治療から6か月程度となります。
また、骨折が重症の場合は、ネジやプレートを体内に入れる手術を、行う可能性も高いです。大きな手術を行った場合は、症状固定まで1年~1年半かかるケースもあり、時期は医師の判断によります。
⑤高次脳機能障害
高次脳機能障害は、交通事故による脳挫傷などで、脳が損傷することにより起こる障害のことです。主に、言語や記憶、思考などの脳の働きに、障害が出ます。
治療やリハビリによる回復の経過をみるため、症状固定までの時期は、長期であることが多いです。交通事故から、早くても1年ほどの治療が必要で、長い場合は症状固定まで数年かかる可能性もあります。
⑥複数の症状
交通事故で受けた怪我や症状が、複数の場合もあります。受傷した部位や怪我の程度によって、治療内容や症状経過も異なるため、症状固定の時期もそれぞれです。
例えば、打撲で整形外科に、また高次脳機能障害で脳神経外科に、通院していることもあるでしょう。そのようなケースでは、一般的に打撲の症状固定の方が早くなります。
症状固定後の流れ
流れ①後遺障害診断書を作成してもらう
症状固定の診断を受け、後遺症が残ったことが認められた場合は、医師に後遺障害診断書の作成依頼をします。診断書は、後遺障害等級が認定されるかどうかの、重要な参考資料です。また、後遺障害診断書がなければ、等級認定の申請手続きもできません。
医師に依頼してから診断書が発行されるまで、約1~2週間かかります。通常は本人に交付されますが、直接保険会社へ郵送してもらうことも可能です。主治医と相談して、スムーズに行える方法で、交付してもらうと良いでしょう。
流れ②後遺障害等級認定の申請を行う
後遺障害等級認定の申請には、事前認定と被害者請求の2通りがあります。事前認定は、相手側の任意保険会社に、申請手続きを一任する方法です。後遺障害診断書の提出をするだけで、あとの必要書類の収集などは、全て保険会社が行ってくれます。
そのため、手続きが簡単であるという、メリットがあります。ただし、被害者にとって有利な書類を提出しているかどうかは、自分で確認することができません。
一方、被害者請求は、被害者が相手の自賠責保険会社へ、自分で申請手続きをする方法です。自分で行うため手間はかかりますが、認定に有利な書類を収集することができます。そのため、納得のいく結果が得られる可能性が高いという、メリットがあります。
流れ③認定結果の通知を受け取る
後遺障害等級認定の審査結果が通知されるのは、申請してから3ヶ月後くらいが目安です。早ければ1ヶ月を経過した頃に、通知がくる場合もあります。しかし、3ヶ月ほどかかると、認識しておいた方が良いです。
また、誰もが等級に認定されるわけではなく、非該当という通知を受けることもあります。その場合は、後遺障害等級に認定されていないため、後遺障害慰謝料や賠償金を受けることができません。
流れ④保険会社と示談交渉を行う
後遺障害等級に認定されたら、相手側の保険会社と示談交渉を開始します。交渉する際に、保険会社から賠償金の提案をしてくる可能性が高いです。保険会社は、なるべく補償額をおさえたい立場であることを、認識しておきましょう。
納得できる補償を受けるためには、弁護士に交渉を一任する、弁護士基準で請求するのが良いです。
なお、自賠責保険での補償を請求する場合は、後遺障害等級に認定されるとともに、賠償金が支払われます。補償の早さを優先したい場合は、自賠責保険への被害者請求も、選択肢に入れると良いでしょう。
症状固定によってもらえなくなる損害賠償
①傷害慰謝料(入通院慰謝料)
傷害慰謝料は、入院や通院をすることで受けた、精神的苦痛に対する補償です。交通事故に遭った際の恐怖心や怪我の苦痛、入通院で生じた不安感や不便さなどの代償を、金銭で支払います。
傷害慰謝料は怪我の程度に関係なく、1日でも入通院をすれば、請求することが可能です。実治療日数や治療期間などで、賠償額が決定します。症状固定になれば、入院や通院をする必要がないため、傷害慰謝料も支払われなくなります。
②治療費
治療費は、治療のために必要な費用のことです。通院するための交通費や、付き添い看護費なども含まれます。治療費においては、2通りの支払い方法があります。1つは相手側の保険会社が、直接病院へ支払いをする方法です。
もう1つは、被害者が先に立て替えておき、あとから相手側の保険会社に請求する方法です。保険会社の方針などによって異なるため、どちらの方法であるのか、確認をしておくと良いでしょう。
また、症状固定の診断を受けた時点で、治療は完了したとみなされます。したがって、保険会社から、治療費も支払われなくなります
③休業損害
休業損害は、交通事故による怪我の治療のために、休業したことで生じた減収に対する補償のことです。治療を受けてから、怪我の完治または症状固定日までの期間で、交通事故に遭わなければ得られていた収入分を請求できます。
また、会社員や自営業者以外の、専業主婦や一部の学生、無職者でも、条件を満たせば請求可能です。いずれも、症状固定日まで補償されます。
症状固定によってもらえる可能性がある損害賠償
①後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、交通事故によって後遺症が残ったことで生じる、精神的苦痛に対する補償です。また、補償を受けるには、後遺障害等級に認定されていなければなりません。
したがって、症状固定の診断を受けた後に、後遺障害慰謝料を受け取れる可能性が出てきます。後遺障害等級は1~14級まであり、慰謝料額は等級に応じて決定されます。
②後遺症逸失利益
後遺症逸失利益とは、交通事故による後遺障害によって失った、本来得られるべきであった生涯の収入のことです。
交通事故前に働いて得た収入を基準にして、逸失利益を請求することができます。逸失利益も、症状固定の診断を受けて、後遺障害等級に認定された場合のみ請求が可能です。
③将来介護費
交通事故による怪我で、介護を必要とする後遺障害が残った場合、症状固定後も将来介護費が発生します。
特に、高次脳機能障害や脊髄損傷など、重度の後遺障害で該当するケースが多いです。日常生活上の身体介護だけでなく、寝たきりの被害者を見守る看視や声かけも含まれます。
症状固定後の通院
自己負担での通院は可能
症状固定の診断を受けた時点で、保険会社からの治療費の支払いは、打ち切りとなります。しかし、治療費を受け取れなくなっても、自己負担で治療を続けることは可能です。
治療を受けるかどうかは、自分の意志で決定して構いません。担当の医師と相談して、本当に今後も治療が必要なのか、よく検討する必要があります。
症状固定後に治療費を請求できるケース
症状固定後に、一切の治療が不要になるわけではありません。支出に該当する状況であれば、将来の治療費や手術費が補償されることもあります。また、医師が作成する証明書によって、支出に該当することが立証されます。該当するケースは以下の通りです。
- 症状固定後も強度の身体的苦痛があり、軽減するための治療が必要な場合
- 植物状態など生命を維持するために、将来の治療費を支払う必要がある場合
- 症状の悪化を防ぐ治療が必要な場合
将来必要となる費用が認められることもある
先述のように、将来の治療費や手術費が認められる場合は、それに伴い通院交通費も支払われる可能性があります。他にも、認められる可能性のある、将来必要となる費用は、以下の通りです。
- 義歯、義眼、義手、義足、車いす、盲導犬費用などの器具や装具類
- 義手や義足などの耐用年数が過ぎたときの交換費用など
- 将来の介護で必要な雑費や介護用品購入の費用など
労災保険を使う場合
症状固定後は、労災保険を使うことができません。したがって、労災保険から受けていた、療養補償や休業補償も打ち切りです。その後も任意で治療を受ける場合は、自己負担となります。
もしも、症状固定後に労災による傷病が再発してしまった場合は、再び補償を受けられる可能性があります。ただし、一定の条件を満たさなければなりません。
症状固定以後は治療の必要性がなくなってしまうので、労災から療養(補償)給付は受けられません。これまで病院で受けていた治療は、症状固定のタイミングで終わりです。
症状固定後に任意で通院治療を受けた場合、その費用を労災に請求しても、原則認められないでしょう。出典: atomfirm.com
健康保険を使う場合
症状固定後に自己負担で治療を受ける場合は、健康保険に切り替えることも可能です。ただし、治療内容によっては、保険適用外のケースもあります。
また、飲酒運転や無免許運転など法令違反で起きた事故、故意に起こした事故などは、健康保険が使えません。たとえ交通事故の被害者でも、使えないケースがあるため、注意しておきましょう。
症状固定の時期は医師とよく話し合おう
症状固定は、これ以上治療を継続しても、回復の見込みがない状態のことです。したがって、症状固定と診断を受けた時点で、治療の完了を意味します。同時に、保険会社からの治療費や休業損害などの支払いも、打ち切りです。
そのため、症状固定の時期は、重要なポイントとなります。担当の医師とよく相談しながら、症状固定の時期を検討してください。
この記事のライター
宮内直美
最新の情報や疑問に思ったことなど、調べることが好きなフリーライターです。交通事故の防止や対処法に役立つ情報を収集して、分かりやすく執筆します。
記載されている内容は※2022年5月9日 10:38:18 ※時点のものです。
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